人は所詮「独り」

大切な人を亡くして、Suzumeの人生は大きく変わった。孤独感。映画や本で知ったつもりになっていたけれど、現実に「孤独」と向き合う毎日は辛くて心が萎縮した。1日が終わりに近づくと孤独感がますます強くなって、会社から帰る夜道を泣きながら帰った。「ウサギ状態※」で常に誰かに支えてもらいたかったSuzumeは、それ以来、誰かに自分を委ねることができなくなった。深い信頼と愛情を寄せるほど、それを失ったときの悲しみが大きくなる…それが怖いから。
あれからもう随分と月日が流れて、心の「引きこもり」は以前ほどではなくなった。でも、心のどこかで常に「人は死ぬときには独り」と自分に言い聞かせているような気もする。
江國香織村上春樹の小説には、「一点の曇りもない幸福」が存在しない。常にどこか寂しさや絶望が漂っていると思う。例えば「ウエハースの椅子 (ハルキ文庫)」。例えば「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド〈上〉 (新潮文庫)」でも。Suzumeが彼らの小説を好むのは、そこに引き寄せられるからなのだろうか。
さて、約1年前に観たいと日記に書いた「トニー滝谷」。結局、映画館で見る機会を逸してしまい、amazonでDVDを購入。
村上春樹レキシントンの幽霊」に収められた同名短編を映画化したもの。
ジャズ・ミュージシャンの息子「トニー」をイッセー尾形が、トニーの妻で買物依存症の英子を宮沢りえが演じている。
トニーの幼い頃の生活から、仕事、結婚生活と移りゆく日々が、走馬燈のように画面に映っては消え、西島秀俊のナレーションと坂本龍一ピアノ曲がその映像にそっとかぶさる。すべてのことが静かに淡々と流れていき、孤独であることの哀しさと心地よさの二面性を表現する。結局、人間は死ぬまで独りなのだと納得させられながらも、それはそれで辛いのだという思いに、ふと胸がしめつけられる。見終わってしばしの間、自分の人生を振り返りたくなる。そんな作品だ。

トニー滝谷 プレミアム・エディション [DVD] レキシントンの幽霊 (文春文庫)

※「寂しくて死にそう」なこと。寂しがるSuzumeを、知人が「ウサギみたいだな」って。以来、使っている単語。