「玉手箱」の発見

日経新聞を読んでいる。仕事上は朝刊で足りるので駅売りにしてもよかったのだが、家で購読している。夕刊の方が楽しいのだ。朝刊は経済情報が満載、丹念に読めばいくらでも時間は過ぎていく。でも、Suzumeは決まったページしか眺めないけど…。それに比べ、夕刊は薄いから丁寧に読もうという気になれるし、何よりもNews以外の企画ページが面白い。ネットナビ、曜日毎にテーマが変わる夕&eye、その左側の連載エッセー、キャリアに関するページ…そして一番好きなのは文化欄。
今年の1月に日経新聞の夕刊が刷新されたと同時に始まった「こころの玉手箱」。各界の著名人が人生の転機を語る5回ずつの定期コラムだ。これまで、日本電産社長・永守重信氏や財務大臣谷垣禎一氏、数学者・秋山仁氏や美術家・横尾忠則氏、歌舞伎役者・坂東玉三郎氏やコロンビア大ジェラルド・カーティス教授等々、バラエティーに富んだ人達が登場し、それぞれに興味深いことを語っている。朝刊の「私の履歴書」よりも短く、また生い立ちではなく人生の転機となった出会いや経験だけを取り上げるので断片的であることは否めないが、むしろその人の個性が際立つものになっている。
一昨日からは作家・高樹のぶ子氏の連載が始まった。1回目のコラムの題名「心震えた 美しい“悪”の魅力」。…この11文字に高樹氏の感性に艶やかさを感じとり、俄然、興味を抱いた。不思議だが、もう20年以上も前に芥川賞を受賞している大作家にも関わらず、Suzumeはまだ彼女の作品を読んだことがない。
昨日の2回目で、その興味は決定的となった。彼女はヴィスコンティ「ベニスに死す」に思いを馳せて訪れたベニス・リド島のことを書いている。ヴィスコンティデカダンで耽美的な映像世界、「ベニスに死す」の甘やかで、そして理想の美に溺れて静かに破滅していくことの哀しいまでの美しさ。あの世界に心を浮遊させる快感を未経験の人に言葉で伝えるのは困難だけれど、経験者とはわずかな表現ですぐに感覚を共有できる。高樹氏は確かにあの世界に快感を覚えたのだと思う。
「純文学が好き」と言いながら、露骨な性愛を描いた場面が多い小説は読んでいると気分が悪くなってしまう。何となく高樹氏にはそういう匂いを感じて、これまで手に取ったことはなかったのだけれど、ぜひ読んでみたいと思う。あぁ、でもそのためには、買ってあるけど読んでいない「○○○」や、知り合いに借りた「○○○○」をまず読破してしまわないと…。
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